【施設紹介】想送庵カノン

  • 2025/07/01
  • 福中翔子

 想送庵カノン。2020年にコロナ蔓延防止策がとられるさなか、東京都との提携でコロナで亡くなったかたのご遺体引き受け施設となり、おひとりおひとりご遺族との面会を丹念に実現することをいとわなかった、知る人ぞ知る総合葬儀場です。

 ご遺体の安置だけでなく、お葬式、ご法要、故人さまのケア、そして終活相談などトータルに応じてもらうことができます。

 そもそもカノンは、「故人さまとご遺族、関係のあった方々が、共にゆっくり時間を過ごせる場所がほしい」との思いでつくられた施設でした。

 個室安置ができ、プライバシーの守られた自宅のような空間で、安置期間中は24時間いつでもそばにいることができる。そんなホテルのようなご安置機能がメインの施設です。

 縁空の葬祭カウンセラー有志一行が施設を見学させていただき、運営会社である「あなたを忘れない株式会社」代表の三村麻子さんに取材しました。


🔷施設情報:想送庵カノン

東京都葛飾区立石8-41-8
TEL. 03-5875-7381 / 0120-717-372
営業時間: 10:00~20:00(年中無休)
ウェブサイト:https://www.tokyo-kanon.com/


エントランス

 エントランスを入ると正面に花が生けられ、高級ホテルのロビーのよう。この花は日々、ご遺族さまを迎える気持ちをこめて、三村さんやスタッフの皆さん自身の手で整えられているそうです。すっきりとした空間ラウンジにはソファとローテーブルのほか、セルフサービスの飲み物が用意されています。
 身近な人を亡くしてここを訪れた一人ひとりが、故人さまとの時間をふと思い起こすとき、亡くしたかなしみよりも、得られた経験の尊さをこころに留めていただける空間であってほしい――そんな想いが伝わってくる、もてなし空間です。

 ここでは年間を通してココアの消費が多く、夏場に置いてあるカルピスも人気だそうです。通夜葬儀の打ち合わせに追われ、ゆっくり食事をする時間を持つことができない(あるいは死別の衝撃のため食事が喉を通りにくい)ご遺族の皆さまに、手軽にエネルギー補給していただけるようにとの配慮から、低血糖対策で甘い飲み物を用意しているとのこと。

 突然の悲しみと向き合うこころを整理したいとき、多くの人はお茶やコーヒーよりも、甘い飲みものを欲するようです。

部屋ごとのコンセプト

 カノンは一般的な葬儀ホールのような大きな部屋ではなく、14もの個性的な小部屋が用意されています。三村さんによればその理由は、「悲しみが人によって違うから」。

 個々人が、自身のタイミングと方法で悲しみと向き合い、逃げ込むことのできる場所が必要と考え、小さな空間に分けているそうです。いずれも部屋の用途は特定されておらず、全室を式場にも、控室にもできるとのこと。

 コンセプトは部屋ごとに異なり、内装がバラバラなのも特徴的です。遺族経験者でもある出資メンバーが、それぞれの大切な人のイメージで各部屋をデザインしました。利用者それぞれに、居心地がよいと感じる部屋を見つけていただけたら……という願いもあります。

 空間の大きさや家具のカラーリングが少しずつ違っており、壁紙は白だけで7種類もあります。桜や唐草模様、ストライプなど、さりげない模様が入っていたり、カーテンもそれぞれ違っています。小部屋はいずれも優しさの感じられる空間で、誰かの家の一室のような居心地のよさを感じました。

どの部屋もデザインはシンプル。椅子とソファや座布団、テーブルのほか、コート掛けのついた棚も設置されています。

これは冬場に来場者がコートを掛けとして利用されるだけでなく、故人の思い出の品などをディスプレイしたりと、自由に使うことができます。

 

葬祭を必要とするのは家族だけではない

「葬祭業で大切なのは、故人を(ご遺体の修復、保管含め)どれだけきちんと最後までケアできるかということ。そして、ご家族の誰もがあとで親族などから批難されないよう、恥をかかせないようにすること。それと同時に、納得するまでお別れのための時間を生み出すこと」

と、三村さんは語ります。また、

「葬儀は家族だけの問題ではありません。故人とつながりのあった皆さんが、それぞれに納得できるお別れが必要」

とも。

 カノンでは、故人ととても親しかったけれども家族葬で葬儀には呼んでもらえなかった会社の同僚や、事情があってお葬式には出られない縁故者が、自由な時間に面会に訪れることができます。

 誰が故人とのお別れの時間を必要としているのかは、家族にも分からない場合が多い、と三村さんは言います。通常の葬祭ホールでは、ここまでの配慮はないように思いました。

人気の個室について

 バラエティに富む2Fの個室で一番人気なのは、三村さんが亡き娘さんの部屋をイメージして作られたという写真の白い部屋(愛称「姫部屋」)。カーテンもバラ模様で全体に可愛らしい印象の、お葬式よりもウェディングに使われそうな明るい部屋です。見学会参加者からは、「天国に行かれそう」という感想が出ました。またその隣に位置する、姫部屋とは対照的な黒い壁紙のシックなお部屋もよく選ばれるそうです。

非公開の舞台裏

 3Fには、霊安室、エンバーミング室と倉庫があり、一般の利用者は入れません。廊下と倉庫内を見学させていただきました。来客を迎える他の階層とまったく同様に清潔な空間が保たれ、薄暗い感じはなく、床もピカピカです。見えない部分も管理を怠らない心意気を感じました。

 倉庫には、掃除用具や仮の柩から、仏具、珍しい小児用の骨壺まで各種備品がしっかり用意されています。

4階 大部屋

 4階は貸し切り対応も可能のフロア。大部屋のほか、控室としても利用できる小部屋が複数並びます。 扉がいくつも並んだ廊下を通り抜けた奥の大部屋は、カノン最大のホール。写真は、毎年6月に行われている「カノン供養祭(カノンにご縁の合った皆さんの合同法要)」の様子です。

 150平米の空間で、余裕をもって座っていただくため40人くらいまでの利用を想定しています。実際は10~20人程度の利用が多いとのこと。「詰めれば100人くらい入れそうな空間なのに、贅沢!」と感じました。

かなしみと向き合う人々に、とことん配慮したアメニティ

 ご遺体とともに一夜を過ごし仮眠をしたいかたのため、可動式ベッドのほか、トイレ、シャワールームも充実したものが用意されています。

 通常の男性用・女性用トイレのほか、広々としたユニバーサルトイレも館内にあります。羽田空港のトイレを理想として再現しているそうで、2人の介助者とともに車椅子で入れるスペースが確保されていました。オストメイトも設置され、利用頻度は高くないものの、「これがあったから泊まれた」、「おかげで最後の時間をともに過ごせた」という方がいらっしゃるそうです。

 トイレには、マウスウォッシュや綿棒など、たくさんのアメニティが用意されています。男性用と女性用に分かれたシャワールームにも、コンタクトレンズの洗浄液・保存液セットのほか、来場されるかたそれぞれに違和感のない香りを選んでいただけるよう、違なる香りのシャンプーが3~4種類も置かれていました。

 悲しい時には香りをきついと感じる人もあり、「複数置いてあればどれか1つくらいは使えるものが見つかるだろう」という配慮なのだそうです。隅々まで、身近なかたを亡くした来場者への気遣いにあふれていることに驚きました。

1階 手元供養品

 1階に戻り、手元供養品のショーケースの前で、取扱品の説明を受けました。

 大切なご遺骨(粉骨)を管理する商品なので、衝撃が与えられるようなことがあっても潰れない鋳物製の商品を中心に揃えているとのこと。お位牌よりも遺骨を手元に残しておきたい、御守りのように持っていたいと考える人が増えており、最初はいらないと思っても、あとでやっぱり……と思い直すかたも多いそうです。

1階 電子タバコ・煙草の喫煙室

 1階には、電子タバコ用の部屋と、紙巻きたばこ用の喫煙スペースがあります。それぞれ、落ち着いた色合いの部屋の中には、椅子が2脚のみ、隣り合って置かれていました。悲しみと向き合う際、他の人と対峙しないように、でも必要なら、隣の人の手を握れるくらいの距離感を意識されての配置だそうです。タバコの火を消す容器にはドリップしたあとの珈琲カスが備えられ、消臭への配慮がなされていました。

 人は、ストレスがあるときほど無意識にカフェインがほしくなったり、タバコを吸ったりしたくなるもの、という考えから、エントランスにドリンクコーナー、そして1Fに喫煙室を用意してあるそうです。

 三村さんは、悲しみは時限爆弾のようなもの、人によっていつ爆発するかわからない、と語ります。そこで小部屋以外にも、ふと悲しくなったとき、すぐ逃げ込めるように、ということを意識して喫煙ルームやロビースペースのソファなども配置されているとのこと。館内のどの空間も、〝悲しみと向き合う〟ということを中心に据えてしっかりと計算され尽くした構造になっていました。

総括と、個人的な感想

 「直葬」など、遺体を〝処理するだけ〟のお別れが急増するなか、ここは世間の主流の対極をいく場所でした。ゆっくりと時間をとって、想いを整理し、大切な人を見送ることのできる場所。

 葬儀とは、弔うとはどういうことか。誰の、何のためにあるのか。想送庵カノンは、その本質を失わず、確固たる理念を持ち、故人と遺族ファーストで運営されている葬儀場、安置施設と感じました。

 施設の見学中、館内で淀んだ雰囲気の部屋がなかったのも印象的でした。きっと、故人とご遺族を丁寧に見守る〝心ある〟場所だから。悲しみと十分に向き合うことができれば、また明日は次への一歩を踏み出そうと考えられる人も多いから、どこか風通しのいい感じがしたのだろうと思います。

 ご遺体に対して充分なケアを施さず倉庫に遺体を積み上げ、葬儀は一日か直葬で、どんどん燃やして回転率を上げるようなホールも存在します。

 このような施設が都内に、あるいは日本国内にどれほどあるのだろうか……?と考えると、葬祭カウンセラーとして複雑な気分になります。

 葬儀とは、弔うとはどういうことなのか、なぜ必要なのか。ある程度は高額にならざるをえない理由についても、普段から……「遺族」になる前から考え、向き合う人が増えればよいと感じました。

 多くの人が、ただ安いだけでは選ばない、少々高くてもきちんとした葬儀を選ぶ、という風潮になれば、業者側も自然と本質的な部分を大事にする方向性へ立ち返っていく流れになるのではないでしょうか。

福中翔子

福中翔子

縁空(エンク)スタッフ・葬祭カウンセラー

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