日本が経済成長していたころは、誰でも「長生きしたい」と願っていました。
老後は長男一家の家に住み、都市部でも戸建ての広さはそこそこひろかったので追い出される心配もなく(サザエさん一家のお宅を思い浮かべれば一目瞭然ですネ)、孫たちから「物知り」と尊敬されてゆうゆうと暮らしていられたからです。
ところが人生100年時代といわれるようになり、長寿をどんどん実現しているのに「長生きリスク」という言葉が聞こえてくるようになりました。このことは、少し前に書いた「平均寿命も健康寿命も長く、そこそこ平和なのに日本の幸福度が低い理由」とも密接につながっています。
長生きリスク ~〝老後2000万円問題〟の真相とは?~
長生きリスクは、長寿を迎えることで生じるリスクのことを指します。具体的には、以下の3つの側面が考慮されます。
- 経済面での長生きリスク:
- 定年退職後、収入が減少することで老後の生活に困窮するリスクがあります。そのため、65歳をすぎても再雇用などで働かなければならない人が増えました。
- 公益財団法人生命保険文化センターが2018年12月に実施した「生活保障に関する調査」の調査結果によると、老後の生活費は夫婦ふたりで平均値で毎月約22.1万円(同じころの調査ですが、金融庁の発表では夫婦で毎月27万円弱でした※)。ところが厚生労働省が試算した年金額(令和6年の場合)は、国民年金(老齢基礎年金)のみの場合、月額6万8000円(1人分)、サラリーマンだった人の厚生年金で23万483円(夫婦2人分)。つまり自営業などで国民年金のみの人や単身世帯では、経済破綻することが叫ばれ、〝長生きリスク〟という言葉が生まれたのです。
- 持ち家の修繕や病気の治療などが加わると、さらに厳しい家計状況になることも考えられます。
- 健康面での長生きリスク:
- 加齢により病気にかかる可能性が高まります。
- 病気をはじめ体力の衰えや認知症等により自炊ができなくなると、施設入所で多大な費用がかかります。
- 延命治療を受けることで生活費と治療費がかかる場合もあります。
- 「孤独」に関するリスク:
- 仕事から引退することで社会とのつながりを感じられなくなり、孤独感を抱くケースが少なくありません。
- 独身の人や配偶者に先立たれた人は、相談できる相手がおらず、精神衛生面でのリスクが高まります。
生活費の〝平均値〟のワナ
しかし、生活レベルは人によってさまざま。持ち家の人と借家の人では、家賃ぶんの月額で、毎月必要な金額は大きく異なります。それをまとめて〝平均値〟で語るのはあまりにも乱暴な予測だといえます。
上述した「夫婦ふたりでかかる生活費の平均値」も、データのとりかたで22万円から28万円まで開きがあります。そもそも、もらえる年金額が厚生年金の人と国民年金のみの人、あるいは未加入期間の長い人とでは雲泥の違いがあるのに、いちがいに「2000万円ないと大変」と騒ぐのは、早急だと思います。
下の動画でもお話ししていますが、私の父は、預金は100万円しかありませんでしたが、なにも迷惑をかけることなくプラスマイナスゼロで旅立ちました。
三世代でローンもない古民家に同居していたので家賃はかからず、月々14万円ほどの年金から食費を3万円負担してもらって、孫に囲まれ、毎日午前中はドトールコーヒーでゆっくりお茶をのんでから、後期高齢者医療証で保険のきくマッサージに通い、午後はテレビ画面にプレイステーションをつないで麻雀三昧で、楽しそうに日々を過ごしました。
サラリーマン時代と自営業が半々なので年金額は14万円でしたが、ときどき孫に小遣いを渡したり、黒いはとバス(ちょっと豪華なはとバス)で日帰りツアーに参加したりも毎月できていました。
長生きリスクへの備え
長生きリスクを感じないで済むようにするため、よく言われているのは以下の5つの対策です。
- 年金の繰り下げ受給を検討する:
- まだ働けるうちは年金受給せず、公的年金の繰り下げ受給を検討すれば、月々もらえる金額が大きくなります。
- 健康寿命を延ばす意識を持つ:
- 健康的な生活習慣を心がけて、老後も自立した生活を送れるようにしましょう。
- 長期投資を心がける:
- 複利を得られる長期投資を検討し、老後資金を着実に積み立てていきましょう。
- 終身年金保険や個人年金への加入を検討する:
- 公的年金だけでは不安な場合、まだ40~50歳代であるなら、終身年金保険や個人年金を検討してみてください。
- 孤独を防ぐために社会的なつながりを大切にする:
- 仕事を退職しても社会とのつながりを持ち、孤独感を軽減しましょう。
このうち1番目・2番目については実行するだけで効果がありますので、やる気次第。
3番目の投資についても、新NISAなどもあって取り組む人がだいぶ増えました。しかし、世界情勢をみれば戦乱リスクによる変動も十二分に考えられますし、大震災などによる株価の大荒れも考えられるため、万全とはいえません。
4番目は、年齢がすでに60代に突入していると一括払いでしか検討できないため、まとまった退職金が得られる人の場合しか該当せず、そうするだけの退職金があるなら、2000万円問題で揺らぐ必要もなさそうです。
残るは5番目です。
あたりまえのことではあるのですが、人間はゴリラと同様、ほんらいは集団で暮らす生きものです。元京都大学総長・山極寿一先生の『人生で大事なことは、みんなゴリラから教わった』(家の光協会、2020年)をお読みいただくと、独居でほとんど人と対話をすることなく何年間もの時間をすごすことは、人間らしい生活といえるのだろうかと、実感をもって感じることができます。
しかし現実には、独居の高齢者はどんどん増加しています。夫婦2人世帯の場合、どちらかが亡くなれば独居になります。人口動態からは、2050年には日本人の独居割合が44.3%という予測も出ています。
では、「社会的なつながりを大切にする」ためには、どうすればよいのでしょう?
町会活動などに参加することでしょうか。
子ども食堂など困窮者のためのボランティアをすることでしょうか。
趣味のサークル活動に積極的に参加することでしょうか。
残念ながらそれらのいずれも、健康でなくなったときには引退せざるをえない役割です。
この記事の最初にたちかえってみましょう。昭和の高齢者がしあわせに年齢を重ねられたのは、たとえ病床に臥せっても追い出されることのない、三世代同居という社会に属していられたからです。
つまり人口減少していて家族を頼りづらい状況にある人が激増してゆくこれからの課題は、血縁を超えて、病めるときもふさいだときも、いつも声をかけあうことのできる人間関係を築くことに尽きるのです。
「長生きリスク」の恐怖から根本的に逃れる、たった1つの秘策
血縁でない人どうしが、信頼しあい助け合ってゆくことのできる社会を築くための突破口となるのは、「人としてどう生きるか?」という根源的な課題への共感です。
財産の多寡を語りだせば、比較と差別が生まれます。
技術の有無を語りだせば、技術のない人は恐縮してしまいます。
しかし、「人としてどう生きるか?」という課題ならば、誰でも磨き続けることができます。
ひとりが「私は聖人だ!」などと高みに立って周囲の人をさげすむようなことがあれば、嫌悪され追い出されてしまいますから、どこまでいっても日々、ひとりひとりが人物を磨き、仲間を敬い、平身低頭で尊重しあっていく必要があります。
それでいて、着ているモノや財力を比較する集団ではないので、同調圧力につぶされるような社会とも違います。
誰もが、「どう生きるべきか?」を考え、語らい合えるコミュニティ。
そうであれば、病床にいても語らえる縁ができるに違いないと思います。
弱ったときも、その姿をみせることで「いかに生きるべきか?」を考えるきっかけをほかの人びとへ与えられる社会。最期の瞬間まで、学びあえる同志。
引退を考えなくてもよいコミュニティ――それこそが唯一、血縁の代わりとして最後の瞬間まで安堵できる環境といえるのではないでしょうか。
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